講評
審査会を振り返っての印象や感じたことを聞かせてください。厳しいご意見も、どんどんいただければと思います。
大貫 賞は次につながるものなので、何を選ぶかとても重要です。どんな基準で審査するか、富山として何を選ぶべきかを最初に考えました。こちらの人は富山といえば立山連峰や寿司と言われるけれど、東京から来た僕からするとその印象が薄いです。だからこそ富山を盛り上げるためにデザインの力を利用して、この土地自体をブランド化することが重要だと思っています。そういった意味で、影響力のあるものを選びたいと思いました。
空気の読めない人は好きではありませんが、富山はおとなしすぎます。賞を取りたい気持ちではなく、世の中に影響したいという思いや、目立って積極的にコミュニケーションするようなガツガツ感があってもいいのに。富山は風呂敷の広げ方をもっと貪欲にしなくてはなりません。表層的なものが多いと感じたので、もっと見る側を説得してほしかったです。
玉置 新幹線で昨年の審査会のYouTubeライブを2時間見て、予習してから富山に入りました。最初はどれがいいかも分からなかったのですが、審査を重ねるごとに自分の解像度が上がっていき、分かってきた感じがあります。
大貫さんに聞くと、早いうちから「なんとなく決まっているよ」と言われましたが。僕も、富山は全体としてお上品という印象を受けました。
吉田 審査しながら考えていたのは、最終的に社会へどのように影響するかです。クライアントのサービスや製品の内容を、よい形で社会に実装させるのがデザイナーの苦心する部分だと思うので、案件をどのように理解して制作し、その後どう影響しているかという流れが見たかったです。
作品の説明が書いてあるラベル(作品に付随してある応募票)の文章も一つひとつを読みました。短いセンテンスの中でちゃんと表現されているものもありましたが、説明文からは掴みきれないものもあったので、個人的にはしっかりと書いてほしいと感じました。
グランプリ 柿本 萌「富山デザインコンペディション2024作品展」
https://toyama-adc.com/work/146
大貫 一見すると「備える」という当たり前に思うことが書いてあるけれど、アートディレクターの手腕があります。企画からデザイナーが参加していればさらによかったし、伝える目的を達成するために、欲を言えば風呂敷を広げてガイドブックなども作られていたらよかったと思います。
玉置 「このデザインがあったらいい」という存在意義が感じられて、グランプリに相応しいと思いました。色が少ないのがよくて、「少し備える」という必要最小限なイメージが湧きます。作家性を抑えてデザインしている感じがよかったです。
吉田 災害を経験して、富山のデザイナーがこの仕事をしているのが良いと思いました。
準グランプリ 羽田 純「タリーズコーヒーおとぎの森公園店」
https://toyama-adc.com/work/29
大貫 インテリアの各所に伝統工芸を使っているというアナウンスがどこにもなく、訪れたときにインテリアがあるだけで、コミュニケーションが成立していません。ごちゃごちゃしているのがよいとはいいませんが、伝統工芸が使われていることがよくて来る店、行きたくなる店にしなければいけません。説明パネルの付け方など方法はいくらでもあります。むしろ説明の方が大きいとかにした方が、よほど珍しくなると思いました。
玉置 印象としてすごく好きです。
タリーズの内装はこれが最適解なのか分かりませんが、お店が増殖し続けているなかで地元と一緒につくるのはいいことだし、タリーズが変わっていくきっかけになると思います。
吉田 地元のデザイナーが、地元の産業とコラボレーションする仕事をやっているのがいいなと思いました。コラボレーションした相手がこれからクライアントになってもらえる人たちでもあるので、プロジェクトを通して発掘できるのがユーザーだけではないということに好感を持ちました。
準グランプリ/会員審査賞 金森健司「「富山のすし」ラッピング電車」
https://toyama-adc.com/work/108
大貫 子どもと発信するという活動の姿勢がいいです。富山を知らない人から見ると、路面電車の印象はとても強いし、富山で一番いい媒体に思えます。寿司のラッピングというのは明快だと思うので、そこを大事にデザインすれば新たなメディアに発展しそうな気がします。
玉置 準グランプリに相応しいと思っています。プロジェクトはいいなと思いながらも、すしのまちにしたいのがこの表現で合っているのかなと感じます。理屈では楽しそうだしプロジェクトもいいのですが、生理的な部分で「食べたい」とならなかったので、それが惜しいと思いました。
吉田 ワークショップで作った切り絵はもっとグチャグチャになりそうな気がしますが、デザインとしてまとまっていて、ラッピング電車としては完璧だと思いました。一方で、子どもたちと関わったことがもっと伝わるように、もっと崩れやはっちゃけがあってもよかったと思います。
準グランプリ 門嶋隆祐「新湊放生津小学校 校章」
https://toyama-adc.com/work/219
大貫 審査員特別賞のつもりでしたが、ここに入ってしまいました。
マークが二色のものより暖簾(幕)に使われている一色のものがとてもいいので、なぜ一色で考えなかったのかなと思いました。桜と鳩が一つになって、40年前からありそうな風格があるのがすごいですね。余談ですが、幕の下の部分が富士山のように見えて、まるで山から鳩が飛び立ったように見えました。
ADC賞 金森健司「富山県美術館までの地図」
https://toyama-adc.com/work/90
大貫 まず、地図というテーマが面白いです。グラフィック的に綺麗なバランス感覚がありました。
吉田 他にも出品されていた「ポスターの街とやま」のポスターの中で一番面白かったです。地図をテーマにつくったものだということで、素直に入ってきました。写真を追って本当に自分が歩いているような感覚になれると、とても楽しいと思います。
ADC賞 金森健司「あけぼのの夜」
https://toyama-adc.com/work/91
大貫 銀河鉄道がモチーフである理屈や説得力がありませんでした。イラストレーターが富山出身の漫画家だと聞いて、それならこれが誰でどんな漫画家だというようなことを知ってもらうストーリーをつくり、作家として目立たせることなどができれば、すべてに相乗効果が生まれると思います。
玉置 最後に推せなかったのは、少し分からないというのがあったからです。でもここまで残ったのは、日本酒っぽくない色づかいとか、味の分からなさがいいなと思ったからです。最後に賞を決めるときには、もう少し分かりたいです。
吉田 飲んでみたいと、普通に思えました。
ADC賞/会員審査賞 高森崇史「おやすみ書店 みみみん」
https://toyama-adc.com/work/129
大貫 長新太さんばりの良いイラストですね。このWEBサイト自体がサービスなのか、サービスの紹介サイトかわからなかったので、そこまで説明してほしかったです。
玉置 描けそうで描けない絵だと思っていたら、お子さまが描かれたのですね。高森さんの説明を聞くだけでも、よく思えてきました。
ADC賞 柿本 萌「すしのまち とやま」


https://toyama-adc.com/work/149
大貫 昨年のTOYAMA ADC年鑑に載っていて同じだから票を入れなかったのですが、路面電車のラッピングは魅力的だと思います。でも、おいしそうではありません。
寿司を推したいのは分かるので、表層的ではなくもっと厚みがあり、地元だから分かるではなくてきちんと理解させてほしいです。おいしそうな寿司のビジュアルの作り方は、いくらでも方法があるので、いろんな人に簡単に伝わるようにすることを意識してやった方がいいと思います。
玉置 表面的なものが多かった中で、プロジェクトがいいと思いました。ただ、この寿司を食べたいと思えるのかなとは感じています。
吉田 最後だけ入れなかったけど、いいプロジェクトだと思っています。
ADC賞 寺越寛史「朝内燃料 成形備長炭「炉山人」」
https://toyama-adc.com/work/188
大貫 ずるい名前を使っているのが巧みです。これを使っておけば間違いないだろうと思わせるような名前で、大人な仕事だと感じました。この炭は売れるだろうし、僕はものすごく素晴らしいと思いました。
玉置 表現とシズル感が合っている気がして、コミュニケーションが早かったです。あまり「?」な感じがなく、気持ちよく見られました。
ADC賞 久保美穂「橋本文良-月次絵vol.2 Doodle1976 グラフィック展」


https://toyama-adc.com/work/58
大貫 ポスターは橋本文良と日本語で入れたらよかったと思います。普通のポスターに見えてしまうので、自信を持って日本語で名前を入れれば違って見えます。コミュニケーションが弱いので、形がきれいとか汚いではなく、しっかりと伝えたほうが良いです。
玉置 グラフィックは、自由でおおらかで楽しいと思いました。でも最後に票を入れられなかったのは、版画だったり、フランス人にタイトルを依頼したりというアイデアがいっぱい入り過ぎていて、知らない人間からすると何が大事なのかが分からなくなってしまったからです。
吉田 デザイナーが作ったにしては、作品の複写が雑だなと思っていました。でも実は作家がデータ化し、作家とのコラボレーションでデザインしたものだったとのこと。それを先に知っていれば、僕はもう少し高い点数の票を入れていました。好きな作品でした。
審査員特別賞 大貫卓也氏・選 久保田光明「チルオアシスとやま」
https://toyama-adc.com/work/253
大貫 富山はビジュアルやイメージのアイデアを迷わずにストレートにデザインする人が多いけれど、もっと変なことをする人がいてもいいのではないかと思います。この作品にはそういったことを感じられたので選びました。

審査員特別賞 玉置太一 氏・選 高森崇史「DAWN N°3」
https://toyama-adc.com/work/118
玉置 おとなしいというかまじめな印象の作品が並ぶ中で、不良っぽさが感じられて目を引きました。時間と共に印象が変わった感じがあります。

審査員特別賞 吉田勝信 氏・選 谷崎千紗「紗をへだてて 〜妊娠して起業する日記〜」
https://toyama-adc.com/work/172
吉田 グラフィックデザイナーが文章を書いているのがいいと思いました。グラフィックデザイナーはビジュアルに注力することが多いのですが、それを説明するには言葉が必要だし、言葉とビジュアルを往復させる試みが重要な課題だと感じています。そういう試みをされているのがいいと感じました。
大貫 装丁から出すことで、こちら側の向き合い方が変わる気がします。なかなかそういうのは無いので、快感のような準備をこちらにさせる部分が、新しくていいなと感じました。

デザインを学ぶ大学生からの質問
――ロジカルに考え、かつグラフィックできれいに見せるコツがあれば教えてください。
大貫 大切なのは、デザインをする目的です。きれいに作らなくてはいけないわけではないし、進め方にも正解や不正解はありません。理屈からやって考えやすい人もいますが、感覚から進めてそれが合っているか検証するやり方もあります。
目的を達成するためのデザインであることが大切なのです。それと本当に慣れない限りはアイデアを手描きして考えましょう。パソコンでやるのがデザインだと思っていると上達しません。
取材・文:高井友紀子(空耳カメラ)